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ピンク・フラミンゴ・クロッキーズ

表現規制やセクマイ、サブカルなどについて適当に書いています。ゆるい素描と備忘録。
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東京都青少年健全育成条例改正問題とは何か

2010年の東京都青少年健全育成条例改正問題について①歴史的な経緯②規制の構造③都条例の特性、成立の過程とその問題点④都条例に関連して議論されるべき問題の4点からまとめました。

タイトルは大きく出過ぎた気がします。
出典は大幅に長岡義幸「マンガはなぜ規制されるのか 「有害」をめぐる半世紀の攻防」によっています。
あ、あとめちゃめちゃ長いです。



1.初めに
私は、創作物特にサブカルチャーの表現規制について研究したいと考えているので、この問題に興味を持つきっかけとなった、東京都青少年健全育成条例について、歴史的な経緯と規制の仕組みの二点からこの条例の重要性と問題点を明らかにしたいと考える。さらにこの条例から派生した問題についても取り上げたいと考える。

2.本論
2.1.戦後表現規制史

 戦後のコミック規制は、1950年代の悪書追放運動に端を発する。第二次世界大戦中、言論統制下に置かれていた人々は、戦後すぐに創作物を求めた。その結果粗悪なマンガ雑誌である赤本マンガやゾッキ本などが流行した。これらの大半は暴力的な内容だったため、子供への影響を懸念した親たちによって悪書追放運動がおこった。警察関連団体である「母の会」は、マンガを「見ない・買わない・読まない」をスローガンとした「三ない運動」を始め、校庭でマンガを焼却するなどし、その数は最高六万冊にも上った。出版業界では、悪書追放運動に対し、マンガの取り扱いを自粛するなどした。
このような1950年代の悪書追放運動は、各地方自治体での青少年条例制定につながった。50年に岡山県で全国初の青少年条例が制定され、これをひな形として他県でも青少年条例を制定するようになった。今日青少年に対する有害環境のほとんどを網羅しているこの条例は、当初は青少年保護の観点からみた創作物の表現規制、販売規制を目的としていた。この条例によって、青少年に有害だとみなされた性的・暴力的・反社会的描写がある創作物(「有害図書(東京都では不健全図書)」という)は書店から一掃された。青少年保護を目的とした表現規制は国政にもおよび、一時は青少年法として中央立法が目指されたが、多くの反対にあい断念した。これによって、各地の条例制定が一層活発化した。80年代の終わりまでに長野県を除く都道府県が青少年条例を制定している。
1963年には、出版業界の自主規制団体である「出版倫理協議会」が発足した。この団体は、業界の自主努力により、出版物の法規制を避けることが目的であった。さらに64年には東京都でも青少年条例が成立した。これに対し反対運動が起こったが、実際の条例の運用は穏やかなものであった。一方、悪書追放運動はさらに拡大し、警察と母の会の協力で白ポストが各地に設置された。白ポストとは、青少年に有害な図書を家庭に持ち込まないように、有害図書を投入して下さいと書かれているポストである。
70年代には、少年マガジン、少年サンデー、少年ジャンプなどの少年誌をはじめとした少年マンガが興隆し、それに伴って様々なマンガが規制対象になった。これには、70年代後半から80年代が戦後第三の少年非行のピークとなったことが原因とされている。78年には、劇画誌がわいせつ容疑で摘発される事件も起こった。
80年代に入ると、和歌山県の主婦の活動を端緒に、各地方での活発な「有害」コミック追放活動や青少年条例によるコミックの有害指定、国会での少女雑誌批判などが起こり、「有害」図書追放の機運が高まる。これらの背景には、89年の連続幼女殺人事件、またその報道による、「おたくと性的メディアが結びつくと犯罪につながる」というイメージの形成があったと考えられる。さらに同年、最高裁判所によって青少年条例が合憲だと判決される。このような80~90年代における一連の表現規制の動きを「有害コミック問題(騒動)」という。
91年には、マンガ同人誌関係者らがわいせつ物販売容疑で流通業者から小売店の店員まで相次いで摘発された。この動きは全国にも及び大規模なマンガ同人誌の摘発が行われた。さらにこのころ大手出版社のマンガも全国で有害指定されるようになった。99年には児童ポルノ禁止法が成立し、児童の性的搾取の撲滅の為の出版規制が始まった。
00年には宝島社裁判が起こった。宝島社は、パソコン通信雑誌に対する都の不健全図書指定を複数回受けたが、これを不服として訴えを起こした。しかし裁判は敗訴に終わった。02年には、松文館事件が起こった。わいせつ物を販売した容疑で、マンガ家、松文館社長ら3人が逮捕されうち社長は50日近く拘束された。その後最高裁まで争った結果、当初の禁固刑ではなく罰金刑となった。さらに09年、大阪府堺市の図書館でBL(ボーイズ・ラブ)図書が撤去されるという事件が起こった。これを堺市図書館BL図書撤去事件という。10年には、東京都青少年健全育成条例改正問題が起こり、大規模な反対活動の末にこの条例は改正された。
このような戦後の表現規制の特徴をまとめると、初期の活動は警察関連団体の「母の会」が先導していたということ、また有害コミック問題の発端も主婦であったこと、松文館事件の発端も高校生の息子を持つ父親だったことなどを考えると、民間の表現規制活動の担い手は子供を持つ親や保護者であり、さらに彼らが警察と協力して青少年健全育成の機運を高めていったことが分かる。さらに、業界の自主規制団体である「出版倫理協議会」は、法規制を防ぐため自主規制に取り組んできたが、その自主規制が法制化されるという逆転現象が起こっていった。この二点が、戦後の表現規制の主な特徴である。
 
2.2.現在の表現規制の仕組み

現在の表現規制には、大きく分けて法規制、条例による規制、業界の自主規制の三種類がある。
まず、法規制について、法規制は大きく分けて刑法175条によるわいせつ物規制と児童ポルノ禁止法によるものがある。刑法175条(わいせつ物頒布等)では、「わいせつな文書、図画その他のものを頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は二年以下の懲役または250万円以下の罰金もしくは科料に処する。販売の目的でこれらのものを所持した者も、同様とする」とされている。刑法175条によるわいせつ規制は、古くは1950年の『チャタレイ夫人の恋人』裁判に遡る。この裁判で、刑法175条が表現の自由を侵害しているとして争われたが、最高裁は刑法を合憲とし、「わいせつ三要件」として①羞恥心を害する②性欲の興奮、刺激をもたらす③善良な性道義観念に反する、の三つを規定した。02年には、松文館のコミックスがわいせつ図画とされ社長らが逮捕される松文館事件が起こった。
児童ポルノ禁止法は、児童ポルノを規制し、児童の性的搾取を撲滅するという国際的な動きのなかで99年に成立した。児童買春とともに、児童ポルノの製造・頒布・提供などが禁止され、違反すると三年ないし五年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される。児童ポルノ法の改正の問題点としては、規制推進派が販売・頒布目的でない「単純所持」や実在の児童によるものでない(マンガ、アニメーションなど描画によるもの、外見上児童に似せて作られた写真等)「準児童ポルノ」を取り締まりの対象に入れようとしていること、さらに「三号ポルノ」のあいまいな定義があげられる。このようなものが法制化されると、冤罪などのリスクが非常に高くなることが指摘されている。
条例による規制は、第2章第1項でも述べたように、各自治体が制定した青少年条例によるものである。当初出版物の販売規制から始まったこの条例は、今日では青少年に対する「有害」環境のほとんどを網羅している。そして、青少年条例では、成人向けの雑誌などを、性的・暴力的・反社会的描写があるとして、「有害図書」に指定して、十八歳未満への販売・頒布を禁じている。罰則は罰金刑が一般的だが、自治体によっては懲役刑を科すところもある。青少年条例における「図書類」とは、書籍、雑誌、文書、図画、写真、ビデオテープ、コンピュータ用プログラム、CD-ROM、映画などを指す。有害図書の指定の方法は主に4種類あり、個別指定、包括指定、緊急指定、団体指定である。このうち、個別指定は、一つの図書に対して個別に内容の審査を行い、指定を決定する方法である。一方包括指定は、条例で定められた描写が一定の割合を占めた図書に対して、内容を審査することなく指定する方法で、問題があるとされている。緊急指定は、特に社会的に影響力がある、著しく青少年に有害などの図書で緊急に販売規制を行わなければならない場合、審査を経ずに行政の独断で指定できる方法である。団体指定は、ビデオ倫理協会やコンピュータソフトウェア倫理機構のような業界の自主規制団体のリストをそのまま規制するという方法である。
 表現規制というと特に話題に上ることが多いのが児童ポルノ禁止法と青少年条例だが、この二つの違いは、青少年条例は青少年の健全育成が目的であるため、成人が指定された有害図書を入手できるかどうかが問題となる。一方、児童ポルノ禁止法は児童の性的搾取・性的虐待の撲滅、被害児童の救済を目的としているため、被害児童がいるかどうかが問題となる。このように、同じ表現規制でも目的と視点が異なるので、これらを混同すると議論が破たんすることがある。
 最後に、出版業界の自主規制について、主な自主規制団体は、「出版倫理協議会」がある。この出版倫理協議会は1963年に設立され、東京都条例と連動して業界の自主努力としての自主規制をしてきた。しかし、出版倫理協議会の帯紙措置や成人コミックマーク、包装義務化、区分陳列化などの自主規制は都青少年条例との連動の中で条例に取り込まれてしまってきた。
特に、出版倫理協議会の、東京都青少年条例によって同一タイトルの雑誌が連続して三回、あるいは年間で五回指定を受けた場合「帯紙措置」を取らなければ流通させないという自主規制は、東京都に日本の出版社のほとんどが集中していることと合わさって、都青少年条例の重要度を格段にあげている。この規制は帯紙をつけることでコストがかさみ、原価を上げざるを得なくなり、小売りからの注文が減って指定図書が休廃刊に追い込まれるという事態に陥る。それだけではなく、流通を規制しているため、東京都の規制基準が全国に適応されることになる。これが都青少年条例改正に対して大規模な反対活動が行われた原因でもある。


2.3.東京都青少年健全育成条例改正問題

東京都青少年健全育成条例の正式名称は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」で、1964年に制定されてから、2010年まで度重なる改正を経ている。特に2010年の改正は大きなもので、大規模な反対運動が起こった。
都青少年条例が重要視された原因は、出版倫理協議会の自主規制と出版社の東京都への集中から、都青少年条例の影響が全国に及ぶことである。また、改正前の都青少年条例の主な特徴として、表示責務(レイティング、例:成人コミックマーク)、包装義務、区分陳列義務(ゾーニング)がある。これらは全て出版倫理協議会の提唱した自主努力であるが、それが法制化されてしまったという歴史がある。
2010年の改正の争点は、「非実在青少年」という都が作った語に表されている。「非実在青少年」とは、都青少年条例6月改正案第七条第二項によると、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」とされている。しかしこれだけでは十八歳未満かどうか恣意的な判断が可能なあいまいな基準である。現行条例では「非実在青少年」という語はなくなっているが、それで規制の範囲はよりあいまいになったといえる。
改正案が成立するまでの流れは、まず08年12月に青少年問題協議会が都知事から都条例の検討をするよう諮問を受けたところから始まった。これは、直前に国会で審議されていた児童ポルノ禁止法改正案が衆議院解散で廃案になってしまったことを受けての行動だと考えられている。09年1月に青少年問題協議会による第一回専門部会が開かれ、答申の素案の作成が始まった。11月には拡大専門部会が開かれ、一般の専門家を読んでの公聴会が開かれた。また記者への会見も行われた。この期間の間に、東京都では青少年条例改正案に対するパブリックコメントを募集していた。パブリックコメントとは、意見公募手続きとも呼ばれ、国の行政機関が政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く一般から意見、情報を募集する手続で、平成17年6月の行政手続法改正により法制化されたものである。地方自治体は行政手続法には適応されないが、同様の制度を設けている自治体も多い。東京都はこの制度を利用し、都民から広く意見を求めた。10年の1月には、青少年問題協議会が都知事に答申を提出した。これをもとに法案の作成が図られ、2月に都議会に改正案が提出された。ここで大規模な反対運動、著名なマンガ家や出版・表現関連団体からの反対表明のために、3月の総務委員会で継続審査が決定した。4月には、多数寄せられた質問に関して、都が質問回答集を発表した。しかしこれは、条例の内容とはかけ離れたもので、弁護士の山口貴士氏によって、法的拘束力がないと指摘された。5月には総務委員会閉会中審査として聞き取り調査や参考人質疑が行われた。6月の本会議では反対派の活動の甲斐あって否決された。だが、11月には新改正案が公開され、12月に都議会に再提出されて、付帯決議付きで可決した。
 この東京都健全育成条例改正問題の問題点は、条例それ自体に関する問題点、条例の成立過程における問題点、条例が及ぼす影響に関する問題点の三つに大別される。
条例それ自体に関する問題点は、条文があいまいで、どのようなものが規制されるのかわからないという点がまず第一にある。不健全図書指定の基準として、「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもの」、成人マークをつけた「表示図書」の基準として「みだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な成長を阻害する恐れがあるもの」と定められているが、双方ともにあいまいな部分を含む。さらにこれが「非実在青少年」の定義と合わさると恣意的な判断が可能である。また人の音声を規制するのは人権侵害に当たる可能性がある(11月改正案で削除)、条例に協力することが「都民の義務」としている、条例に協力した団体に助成金が与えられるなどの問題点がある。憲法で保障されている表現の自由を侵害する恐れがあるという点は指摘するべくもないが、創作物が実際に青少年に悪影響を及ぼすという科学的データ・学問的研究はないことにも留意したい。これは、規制推進派も認めている事実である。
次に条例の成立過程における問題点であるが、東京都の説明(質問回答集など)と条文の内容がかけ離れていることは先に述べたが、東京都青少年問題協議会の構成員にかたよりがあったことは重要である。素案をまとめた首都大教授の前田氏雅英氏は児童ポルノ禁止法改正の推進する立場で、さらにこれまで警察に関連した職務についていた。同じく弁護士の後藤啓二氏は元警察庁官僚で関連職務にもついている。このように出版業界やクリエイター、反対派がいないばかりかある特定の組織に関連がある人物ばかりで構成しているのは問題がある。
さらに、上記の東京都青少年協議会の審議において、差別的発言がされていたことがわかっている。「…彼ら[性描写のあるマンガの読者]は認知障害を起こしているという見方を主流化する必要があるのでは」「同性愛や少女性愛は情緒的未成熟や遺伝的要因が原因である」というような発言が青少年問題協議会において実際にあったということが議事録によりわかっている。
また、パブリックコメントで反対9割だったにも関わらず、条例の成立を推し進めたことも、大きな問題である。パブリックコメントに関する経緯として、募集されたパブリックコメントは開示されなかったので、西沢けいた都議が都に情報開示請求をしたところ、開示は先送りされ、都議会が閉会したのちに開示された。しかも、開示された文書は一部黒塗りがされており、都によると個人情報の保護や個人への誹謗中傷を削除するためとされていたが、実際には先に述べたような青少年問題協議会のメンバーの問題発言を引用した部分が黒塗りされていたということが分かった。さらに都はこのパブリックコメントの集計を行っておらず、開示請求をした西沢都議が集計したところ賛成32件、反対1037件で反対9割であった。この事実を、東京都は「都民の皆様は条例について誤解されてしまっている」などとして、ほぼ無視した格好で条例の制定を推し進めた。これに関連して、数多くの出版・漫画・アニメ・学者・諸関係団体から反対声明が出されていたが、それも当然無視した格好になる。
最後に、条例が及ぼす影響に関する問題点として、マンガ・アニメなど日本のコンテンツ文化の衰退を招くことが最終的な結果として考えられる。
その前段階として、出版業界・書店・クリエイターの萎縮を招くという点がある。BL作家の水戸泉氏は都条例改正に際して、12歳の子供が拳銃で人を打ち殺すシーンを編集部に見とがめられ、そのシーンを丸ごと削除するよう指示されたが、水戸氏は反対し、最終的に年齢を書かず単に「子供」と描写するにとどまったという。また児童ポルノ禁止法が制定された当時、紀伊国屋書店では、『バガボンド』『あずみ』などの有名コミックスをはじめとした十八歳未満の性行為がある作品をすべて店頭から撤去したことがある。
このような過剰な自粛と関連して、性描写がある創作物への過剰な反応に対応せざるを得なくなるということがあげられる。この問題点の代表的な事例は、堺市図書館BL図書撤去事件や松文館事件がある。堺市図書館BL図書撤去事件の発端は、堺市に市民から苦情が寄せられたことであった。その苦情で、図書館のBL図書を撤去するように言われた結果、堺市図書館のBL図書は開架から撤去され、一時は廃棄寸前まで追い込まれた。松文館事件のきっかけも高校生の息子の机に件の書籍が入っていたことを発見した父親が、自らが支持する衆議院議員に陳情の手紙を書いたことであった。また先に述べたように条例に協力するのは「都民の義務」とされているため、関連業者がそのような苦情に対応せざるを得ないという点もある。
さらに、青少年条例では成人の指定図書の入手は認められているが、流通業界の自主規制ルール・書店のイメージダウン、業務増加等から不健全図書指定を受けたものを取り扱わない場合がある。流通の自主規制ルールは先に述べた出版倫理協議会の取り決めだけでなく、コンビニエンスストア業界では、指定を受けた出版社のものは「すべて」取り扱わないというルールもある。また大きな書店では先に述べた紀伊国屋書店のようにイメージダウンや苦情を嫌って、小規模書店では包装や区分陳列にかかるコストや業務増加で経営を圧迫されるため、そもそも不健全図書指定を受けたものを取り扱わない場合がある。このように、実際には成人の入手もできない場合が多くみられる。
東京都青少年健全育成条例改正問題には、多くの問題点があり、その多くは直接的なものではなく、間接的なものであったことがわかる。

2.4.都条例問題から見る関連分野の問題

 表現規制が様々な観点・方法から行われていることから、関連した諸分野の問題が絡み合っていることが多い。たとえば、都条例問題では地方自治の問題、教育の問題、販売・流通の問題、市民活動の問題などである。児童ポルノ禁止法では、性犯罪や児童虐待の問題、国際問題、冤罪の問題などがある。このような関連分野の問題のうち、私は特にセクシュアルマイノリティ・ジェンダー問題と、マスコミ報道における問題を取り上げたい。
セクシュアルマイノリティ・ジェンダー問題においては、同性愛などへの差別的な発言があげられる。先に述べた青少年問題協議会の発言は、同性愛者に対して偏見に満ちた発言であった。また、都条例改正を推し進めた石原都知事も、「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」とセクシュアルマイノリティについて発言している。この発言について、日本やアメリカのLGBTの権利団体が多数抗議を寄せている。もちろん、セクシュアルマイノリティが遺伝が原因でも精神的未成熟のためでもないことは周知の事実である。このような差別的見方が、表現規制の場に持ち込まれることは、セクシュアルマイノリティの権利獲得にも不利益をもたらすことは明確である。しかし一方で、創作物がそのような差別的見方を助長してきたという指摘もまた聞き逃せないものである。この問題に対しては、表現規制反対派とセクシュアルマイノリティの権利運動者が協力して取り組まねばならない問題だと考える。
また、BLに対する規制・バッシングも、堺市図書館BL図書撤去事件などに表れている。この事件は、住民監査請求によって収束し、図書は廃棄を免れた。日本図書館協会もこの事件に関して、図書館の資料提供の自由について触れている。またこの問題に関して、いち早く反応したのはジェンダー学者たちであった。BLという作品ジャンルは、ジェンダーと深く結びついていると考えられているからだと考えられる。このようなBLに対する規制・バッシングの原因は、一般の人々のBLに対する無理解や同性愛への差別的見方だと考えられるが、一方で、BLを好んで読む人々(いわゆる「腐女子・腐男子」)が、自らの権利に対して無頓着あるいは自己批判的であるのが背景としてあげられるのではないだろうかと私は考えている。また、このような人々によるセクシュアルマイノリティ差別もあり、BLの問題が非常に複雑であることも考慮しなければならず、より一層この分野の研究が望まれる。
マスコミの報道の問題に関しては、印象操作とマスメディアの議題設定機能の二つを取り上げたいと思っている。印象操作は、古くは連続幼女殺人事件の報道にあった。都条例改正問題の際には、2010年5月4日の読売新聞で「親は知らない PART5⑤ 女児襲うマンガ 手つかず」という記事が掲載された。この記事の内容は、女児が暴行されるマンガを描いた男が児童ポルノ禁止法や強制わいせつで逮捕された、男は実際の女児に対する暴行を見て書いていたではないかというドキュメント風のストーリーから、児童ポルノ禁止法や都青少年条例改正問題に導入しているものである。この記事の問題点は、まるで児童を性的に描いたマンガの作者は全て実際にそのような行為を行っている又は見ているかのように書かれていること、児童ポルノ禁止法と都青少年条例が混同して書かれていることだ。このような印象操作は悪質といわざるを得ないのではないかと考える。
また、都青少年条例改正問題が持ち上がった当初は、マスメディアは問題に対して全く無関心で、ほとんど報道がない状態であったため、一般の市民はこの問題をほとんど知らなかった。マスメディアの議題設定機能とは、マスメディアは人々に対して問題とされる事柄、議論すべき事柄を設定することができるというメディア効果論の一つである。マスメディアが取り上げれば取り上げるほどその問題の重要度は高くなり、議論すべき事柄として扱われるようになる。一方、マスメディアが取り上げなければその問題の重要度は低くなり、議論に上らなくなる。このように、都青少年条例改正問題が人々に周知されなかったのはマスメディアの影響によるところが大きいと考えられる。

3.まとめ

東京都青少年健全育成条例改正問題には歴史的な経緯と複雑な規制の仕組み、間接的な影響力が重要な鍵となることが分かった。また、この問題に関連する分野の問題についても知り、その分野の専門家などと協力して問題解決を図ることが重要なのではないだろうかと考えた。都条例改正問題から明らかになった表現規制の特徴などを理解して、このような規制が行われることを敏感に読み取り、間接的な影響も考慮して深くこの問題について考えていくことが重要だと考えられる。

4.参考文献

長岡義幸「マンガはなぜ規制されるのか 「有害」をめぐる半世紀の攻防」,平凡社,2010
「東京都青少年・治安対策本部ホームページ」
http://www.seisyounenchian.metro.tokyo.jp/index.html(12月1日閲覧)
「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」2月改正案
「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」11月改正案
50年史編集委員会「日本雑誌協会 日本書籍出版協会50年史」日本雑誌協会・日本書籍出版協会,2007 
「東京都公式ホームページ」http://www.metro.tokyo.jp/(12月1日閲覧)
東京都青少年・治安対策本部総合対策部青少年課「東京都青少年の健全な育成に関する条例のあらまし」
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_jyourei/aramasi24.pdf(12月1日閲覧)
ジュディス・レヴァイン 藤田真利子訳「青少年に有害! 子どもの「性」に怯える社会」河出書房,2004
長岡義幸「出版と自由 周縁から見た出版産業」出版メディアパル,2009
東京都「東京都青少年の健全な育成に関わる条例改正案質問回答集」
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/DATA/20k4q500.pdf (11月30日閲覧)
2010年5月24日毎日新聞「不明確な基準論議 表現の自由どう守る」
「石原都知事の同性愛差別発言と波紋」
http://ishiharakougi.blog137.fc2.com/blog-category-0.html(11月8日閲覧)

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